「ミニトマトが教えてくれたこと」 家庭菜園による食育
今年、私は初めて家庭菜園というのをやってみた。
猫の額ほどの広さの庭の一角で、春先から地面を掘り、耕し、トマトやら幾つかの野菜の苗を植えた。
幸運にも、それらの野菜は無事に実をつけ、私たち家族や近所の子供たちまで楽しませてくれた。
『お父さんランド』と名付けられたその畑で、ナルはいろいろとお手伝いをしてくれた。
野菜に水をやったり、収穫した野菜を運ぶお手伝いをしたり、はさみを使ってピーマンやらオクラやらの収穫も手伝ってくれた。
ある日、いつもと同じように収穫したミニトマトを運ぶお手伝いをお願いした時のことだった。
「ナル~ これ玄関に持って行って~」
ナルは両手いっぱいにミニトマトを持って行く。
「おとうしゃーん! おとうしゃーん! きてー!」
ナルが笑いながら私を呼ぶ。
「おとうしゃん みて! みて!」
何かと思って行ってみると、ナルが収穫したミニトマトを地面に投げて、それを踏み潰して遊んでいた。
「みて! みて! ごみ!」
ケラケラと屈託のない笑顔で、楽しそうに笑う。
「ナル・・・」
私は残念そうな顔をして、しゃがみ込み、ナルの肩に手を置き、真剣な顔で首を振る。
「ナル、食べ物で遊んだらダメ。トマトが可哀想やろ?」
ナルとしては私に楽しんでもらいたかったのだろうが、どうも雰囲気が違うぞ、というのを察知して逃亡を図ろうとする。
「もうしない!」
そう言って、ナルは私の手から逃げ出した。
(口ではもうしないと言っているが、これは口だけだな~)
そう感じた私は地面に落ちて、ナルの長靴で踏みつぶされたミニトマトを拾う。
「ナル、おいで」
そう言って、私はナルを水道に連れて行き、潰れてしまったミニトマトを洗う。
「ナル ごみじゃないよ」
私は踏まれて潰れてしまったミニトマトを口に入れ、食べる。
「だめ~! だめ~!」
ナルはそれを見て驚き、泣きながら私を止める。
水で洗ったとはいえ、まだ少し砂は残っていた。ジャリジャリ口内から音がする。
「おとうしゃん だめ! だめよ!」
ナルは泣きながら、潰れてしまったミニトマトを食べる父を止める。
「ナル トマトは食べるものやから。トマトさんが可哀想やから、もうしたらいかんよ?」
「うん もうしないよ」
ナルは泣いてぐしゃぐしゃになってしまった顔で、しっかり私を見ながらそう言った。
先日、たくさん実って私の家族だけでなく、ご近所さんまで楽しませてくれたミニトマトの木は撤去された。
「トマトさん ばいばーい!またね!」
ナルと一緒に別れを告げる。あれから、ナルがミニトマトを粗末に扱うことは一度もなかった。
来年はトモも歩き回っているはずだし、『お父さんランド』はもっと楽しくなりそうだ。