「私とトモの200日戦争」 次男トモのイヤイヤ期 序章
イヤイヤ期を満喫中!
1歳半となったトモはイヤイヤ期を満喫している。
「いや~」と叫びながら、満面の笑顔で走り回るトモを見ていると、イヤイヤ期とは「いや!」という気持ちと行為を覚えた子供が、それを試したくて仕方がない時期なのであろうという気持ちになってくる。
新しく手に入れたオモチャで遊ぶようにソレを振り回す。
そこに、親を困らせたいという邪な気持ちはなく、単純に「いや!」したいだけであり、結果として親が困っているだけなのである。
とは言え、長男ナルで一度経験していることもあり、トモのイヤイヤ期への対応は割と余裕がある。
精神的な余裕も心構えもあるし、家も広くなったし、ナルも頼りになる。
トモは私やマコの言うことは聞いてくれないが、ナルの言うことなら聞いてくれるということもある。
全く、頼りになるお兄ちゃんである。
更なる高みを目指すトモ
さて、そんなどこかほっこりした雰囲気のあるイヤイヤ期のトモであるが、最近少し困っているのが、高い所に上がりたがる行動である。
運動能力の向上と次男坊らしいやんちゃな性格で、高い場所にどんどん登って行く。
代表的な場所はテレビ台と、テーブルの上である。
先日は椅子からテーブルに上り、そのままキッチンとテーブルを隔てるカウンターにも挑戦していた。
常にさらなる高みを目指すという向上心が伺える。
とは言え、落下するととても危険なので親は制止しようとするのだが、強制的に排除(降ろす)と、酷くご機嫌を損ねたりもするのである。
本人もそれをやると叱られるというか、お父さんもお母さんもそれを止めようとするのがしっかり分かった上でやっている節もある。
多分、親のリアクションが楽しいのであろう。
この後、無事に登攀に成功! って、やめて!!
テレビ台はお立ち台
「テレビに近いよ~ 離れて~」
Eテレなどを視聴中に、妻マコが優しく注意を促す。
ナルトモは「は~い」と元気にお返事した後、一旦はテレビから離れるが、徐々に近づいていき、最終的にはテレビ台の上にまで登って行く。
そして、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、音楽に合わせて狭いスペースで踊るのである。
このグルーヴ感とリズム感はリトミックの効果だろうかとほっこりしていたのだが、ある時、トモが狭いテレビ台の上でブンバボンを踊っていた際に、バランスを崩し落下したことがあった。
その時は運よく私が近くにいたため、咄嗟にキャッチして大事にはならなかった。
我が家の重大ヒヤリハット事案である。
この悪い遊びを教えたのはお兄ちゃん 。
ちなみにナルは幼稚園でもステージ上で歌とダンスを踊りまくっているとのこと。
トモ失敗から学ぶ?
労働災害発生についてのハインリッヒの法則によると、1つの重大事故の背景には、29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するということである。
父親という名の安全管理者としては、いい加減に何らかの対策を立てなければならない。
私的には大怪我しない程度に怖い目にあって何かを学ぶっていうプロセスは、大いに「有り」であった。
テレビ台から落下して大泣きするトモをなだめながら、怖い目にあったので、これで少しは学ぶかな~と思っていた。
大怪我することなく、学習の機会を得られたことは幸いだった。
しかし、舌の根も乾かぬうちにというか、その日の夜には再びテレビ台に乗ってダンスを繰り返していた。
反省の色は見られない。
繰り返す、反省の色は見られない!
椅子を運んできて、スムーズに舞台に移動することも習得
安全対策を考える
「トモ!駄目よ!」
重大事故を避けるために、怖い顔をして脅すこともできるのであるが、「おとうさん みてみて のぼれたよ!」と、ニコニコ笑顔でダンスを披露してくれるトモに、そんな冷たい態度がとれないのだ。
「貴様、甘々だな!」
妻マコには時々そんな風に呆れらることもある。
そう、私は甘いのだ。
「言葉が通じなくても、繰り返し真剣な気持ちで伝えていればきっと通じますよ」
実は私はこの手の早期からの躾については、あまり乗り気ではない。
というよりも、苦手である。
私の育児スタイルは「交渉型」である。
なだめ、すかし、脅し、提案し、交渉する。
ある程度言葉が通じるとはいえ、まだまだ赤子の域を出ないトモに対しては無力とは言わないが、非常に効果が小さい。
時には叱ってみる
「おとうさん、ともちゃんだめよね!らいおんして!」
食事中にテーブルに上がり、ナルのご飯を狙うトモに対してナルが叱責を要求する。
ナルは自分がされたら怖い私のライオンの真似でトモを脅すように要求する。
ライオンの真似はナルを叱るときには現在も非常に有効な方法であり、最終兵器として使用されている。
あまりにもトモに対して甘々であり続けると、ナルからの信頼も損ねかねない。
私は心を鬼にして、トモに向かって咆哮する。
「グァオオオウ!」
眉間に皺を寄せ、歯をむき出しにして、渾身のライオンを披露する。
しかし、トモは別にライオンを恐れていないのだ。
「ごぉー」
むしろ、ライオンは大好きな動物である。
楽しそうに、お父さん僕もライオン出来るよ見て!とばかりにライオンの泣き声を披露してくれる。
全く効果は無い。
私の威厳がナルの前で失墜していく。
「ナルよ、トモはライオン怖くないんだよ」
「じゃあ、ふくろうして」
「ほぉー ほぉー」
その後、動物の鳴き声披露会となった食卓に、マコが呆れ顔で乱入し、トモを強制的にテーブルの上から排除していくのである。
注意喚起の看板の設置
色々と試行錯誤した結果、言い聞かせることは効果が薄いので、注意喚起の看板を設置することにした。
職場の安全管理者が、根本的な解決ができないときに、取り敢えずで実施する手法である。
取り敢えずは対策しましたよ、というアリバイ作りだ。
だが、やりようによっては効果が期待できる方法でもある。
どのような注意喚起の看板を設置するか。
トモは字が読めないので、絵で注意を喚起する。
トモが唯一恐れている、オバケの看板である。
『鬼から電話』から拝借した画像を印刷して、両面テープを使ってはがれないようにしっかりテレビ台に貼りつける。
テレビ台に登ろうとして、ソレに気付いたトモが悲鳴をあげる。
「いや! いや! だーきゅら! いや!」
効果は抜群だった。
凄いな、『だーきゅら』って言えるんだ。
同じように食事用テーブルの上には魔女の写真を設置する。
「いや! いや! いっひっひ! いや!」
魔女のことは『いっひっひ』って覚えているのか。
そんな感想を抱きながらも、絶大な効果に満足する。
作戦は成功であった。
安全対策に必要な物語
河には河童がいる。
暗闇の中には何かが潜んでいる。
悪い子のところには鬼が来る。
そして、良い子のところにはサンタクロースがやってくる。
そんな先人の知恵を想いながら、空想上の生き物たちについて思いを馳せてみる。
ああ、昔の人もきっとこうやって子供をコントロールしていたのだろうな。
危険な場所には決まって恐ろしいオバケが設置されている。
「子供から目を離してはいけない!」
育児中の母親たちを苦しめる呪詛である。
少しでも育児をした人間であれば、これが無理だというのは自明のことだ。
達成不可能なことを要求するのは、まあ馬鹿なのだろう。
現実的には「いかに子供から目を離せる状況を作るか」ということが大切になる。
それは、目に見える危険を潰し、想定できる危険を潰すことが重要だ。
そして、教育や躾。
それでも、子供は親の想像を超えてくることがある。
ここから先はもう確率論、運否天賦の世界だ。
人事を尽くして天命を待とう。
どうか神様、うちの子が無事でいられますように。
後日談
数日後、トモは恐ろしいドラキュラと魔女の写真を、上に物を乗せて覆うという方法で解決していた。
トモが置いた本によって封印されたドラキュラ
「えいえい! へんしん!」
見えなくなればこっちのものだとばかりに、威嚇するトモ。
その後も、本や紙を上に乗せて、ドラキュラや魔女を攻撃する。
だが、本の下にはドラキュラや魔女がいるという情報は覚えているらしく、テレビ台やテーブルの上に登る行動は随分と減ってくれた。
取り敢えずは、 一定の成果があったと言えるだろう。
だが、トモはいつかきっとドラキュラや魔女への恐怖を克服するのだろう。
よろしい。
健全である。
そうであるならば、お父さんはもっと知恵を絞ろうじゃないか。
毎日、お前たちを観察して、もっと面白い方法で問題を解決してやろう!
それこそが、育児の醍醐味である。
私とトモの戦いは続く・・・